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緊急企画!
女性獣医師として現役であり続けるためにどうすればいいのか?

学生の時点では半分が女性であるにも関わらず、その後、勤務医、開業院長となると、女性の比率は極端に減っていく。
そこで、長く臨床医を続けられている女性獣医師お2人に、結婚、妊娠、出産、そして育児と女性特有の事情を乗り越えて現役を続けるためにどんなことをしてきたのかを緊急に取材した。
(全文は『別冊Succession』に掲載)。

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結婚が勤務医時代であれば退職していた

妊婦、子育て中をフォローして頂けるかどうかは院長の考え方次第
匿名(2009年卒)

【勤務医編】「激務」であることはその病院に勤務してからしかわからない

西川 本日お伺いしたいポイントは、学生さんの半分が女性になってきて、その大半が小動物臨床を目指して入学されているのにも関わらず、大学時代に進路を変更したり、臨床医になった後も途中で辞められる女性獣医師が多くいらっしゃいます。
そこで、どうすれば女性として長く臨床医を続けられるのかについてお伺いしたいと思います。
動物病院としてこれからは女性が働ける環境を作っていかなければならない時期に来ていると思いますので、先生のメッセージを学生さんのみならず、多くの院長先生にも届けたいと思っています。
まずは、先生はどのような経緯で獣医師になられたのか、からお願いします。

女性勤務医 獣医学部を目指そうと思ったのは、高校の進路指導の時でした。将来、どんな職業に就こうかと考えた時に、私が思い出したのは、「獣医師になって実家の動物病院を継いでほしい」という父親の思いでした。
そして獣医学部に入ってからまず驚いたのは、動物が好きで獣医学部を目指した人が多かったことです。私とみんなとの志望動機は違っていました。
6年間があっという間に過ぎて、私は当然、小動物の臨床医の道に進んで勤務医になりました。
勤務先病院を探す時は、私が実家の病院に戻ろうとは思わなかったことと、両親も他の病院で働いた方がいいと言うので、関東圏で5〜6件実習に行って、その中から勤務先を決めました。


西川 その病院に行こうと思った決め手は何だったのでしょうか。

女性勤務医 これまで働いたことがないので、何を基準にして勤務先を決めるのかがわからないまま、実習に行っていました。その後の結果から何を基準にしていたのかを考えてみますと、私は勤務時間や休み、給与よりも、院長の人柄と患者さんとの接し方を見て決めたように思います。
勤務医が8人いる大病院でした。
しかし、その病院に入ってから「予想していた以上に激務だった」ことにビックリしました。


西川 その病院の仕事がハードであることは実習中にはわからなかったのでしょうか。

女性勤務医 実習の時は、「院長先生の診療を見てください」と言われていたので、他の勤務医先生がどんな働き方をしているのかまではわかりませんでした。
そして診療時間終了の19時になると、「もう帰っていいですよ」と言われて帰されるので、勤務医先生が何時から何時まで働いているのかも全く知り得ませんでした。


西川 その病院の勤務実態がわからないままで就職されたのですね。

女性勤務医 学生なので、勤務形態について深く考えていませんでした。
今から考えれば、そこで残りたいと言えば仕事がいかに激務なのかがわかったのでしょうが、まだ社会を知らないので、「帰ってもいい」と言われたら、「はい」と言って帰っていました。


院長(父) 勤務医がどんな働き方をしているのかは学生にはわからないでしょう。
全般的にみますと、1年で3分の1のスタッフが入れ替わり、3年で半分が、5年経つとほぼ全員が入れ替わります。
しかも大病院ほど、入れ替わりが激しい。


西川 先生はその大病院に勤められて、辞めずに頑張ったわけですね。
なぜそのハードな状況で頑張れたのでしょうか。

女性勤務医 「どこに行っても同じだろう」と思ったことと、「1年未満で辞めてしまうと次に雇ってもらえる病院さがしが難しくなるのではないか」「前の勤務先をすぐやめたレッテルをはられる」と思ったからです。

西川 そのきつい状態はその後もずっと同じでしたか。

女性勤務医 その病院には2年半勤めましたが、年々、楽になっていきました。
1年目は、精神的にも肉体的にもきつかったです。1年目なので、病院のシステムもわかりませんし、どこに何を置いているのかも把握できていない。先輩勤務医やスタッフは自分のことで精一杯で、新人の面倒をみていられるほどの余裕はなかったですし、看護師に厳しい人がいましたので、精神的プレッシャーになっていました。
それが年数を重ねると、病院の全体像もみえるようになってきますし、「あの厳しい看護師さんには今は話しかけない方がいい」とか、人との接し方も身に付いてきますので、年々楽になっていきました。

【結婚編】重症患者を任せて帰れるかどうかで続けられるかどうかが決まる

西川 その病院の勤務医を辞めた後に実家の病院に戻られたのでしょうか。

女性勤務医 はい、そうです。
臨床勤務医になって3年目で実家に帰ってきて、今の夫と出会って、臨床5年目で結婚しました。


西川 結婚後、どのようにしようと思われたのでしょうか。

女性勤務医 もちろん、結婚後も臨床医は続けるつもりでした。

西川 その時に、実家の動物病院を継ごうと思われましたか。

女性勤務医 その気持ちはなかったです。
ただ結婚しないで独身のままであれば、勤務医として60歳くらいまで働くか、父の病院を継いで経営していくのかの選択をすることになったのだろうと思います。


西川 この日本では結婚を機に臨床獣医師を辞められる女性が圧倒的に多いですね。

女性勤務医 そうですね。
結婚が前の病院の勤務医の時であれば、私も結婚を機に臨床医を辞めていたと思います。
あの激務は結婚してから続けて行くことはできないので。


西川 前の病院で長く勤められている女性獣医師はいなかったのでしょうか。

女性勤務医 長く勤めている先生は3人いました。
1人目の先生は、結婚していて、「17時までです」と言って勤めていましたが、すごく責任感が強い方だったので、自分の患者さんが入院していると17時には帰らない。結局、22時くらいまで残っていました。
責任感が強くて他者に任せられないことと、病院も院長、勤務医、スタッフが個々に忙しすぎてコミュニケーションが出来づらい環境でしたので、他の先生に引き継ぐことができなくて、その先生が残って診るしかない状況になっていました。
2人目の先生は、10年くらい勤務している先生で、結婚していて子供がいない先生です。
その先生は旦那様も会社からの帰りが遅い方なので、早く家に帰りたい素振りが無く、みんなの仕事が終わるまで残って勤務している先生でした。
3人目の先生は、10年目で独身の先生です。
この先生は、「21時で必ず帰る」という雇用契約をしていました。どれだけ病院が忙しくても、21時になると、「帰ります」と言って帰っていました。


西川 それでも21時なんですね。
結婚して臨床医を続けるには、どんな秘訣があるのでしょうか。

女性勤務医 結婚したことで出て来る問題は、仕事と家事をどう両立させて行くのかです。
これは「何時に家に帰れるか」で、そこで大事なことは、その病院がその時間にきちんと帰れる病院であるかどうかです。
つまりは、重症患者を誰かに任せて自分は帰ってしまってもいいような体制、仕組みがあるかどうかで、結婚後に続けられるか、辞めるかが決まると思います。


西川 その仕組みがあるかどうかと、院長先生か、副院長先生がフォローしてくれるかどうかですね。

女性勤務医 はい。院長や副院長のフォローがあって帰宅できるのであれば、結婚後も勤務医を続けられると思います。 「独身で21時には必ず帰ります」と言う先生は、自分が21時に帰りたいので、カルテや受付の問診票をみて、「この患者は私は診ない」と重症患者は診ないようにして自分の働き方を決められていました。
独身であれば、こんな働き方にすることで長く働くこともできるでしょうが、結婚すると、結婚相手がどんな人であるのか、家事を分担してくれる人なのかなどによっても続けられるかどうかが決まってくるように思います。

この続きの【妊娠・出産編】【育児編】は、別冊Successionに掲載しています。

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別冊サクセッション
小暮忍先生

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夫婦共に獣医師の病院で開業準備をしたから、女性が続けられる環境が自然と出来て行った
小暮 忍先生(小暮動物病院、埼玉県春日部市)

子育てで一番大変なのは、小学校入学まで

西川 大学では女性の比率が5割を超えて小動物臨床を目指す人が増えているのに、小暮忍先生のように、生涯現役で続けられる女性獣医師は本当に少ない。
ご夫婦で開業されたとしても、子供ができると辞める女性が圧倒的に多いのが現状です。
そこで、先生がどのようにして出産や子育て時期でも現役であり続けられたのか。
これから臨床医を目指す女子学生さんにとっては非常に参考になると思いますので、ご経験談をお伺いしたいと思います。

小暮忍先生(以下忍先生) 40年前の事で、今の時代に通用するか分かりませんが、お話しいたします。結婚して子供ができると、女性獣医師に限らず仕事よりも家庭中心になる女性が多いと思いますが、私が続けて来られたのは、2つの理由があったからと思います。
1つの理由としては、開業時に多額の借金をしていた為、数年間はスタッフを雇用は出来ませんでした。その時代は、小動物を希望する獣医師や動物看護師が少なかったことと動物の扱いに慣れた人を探すのも難しかったからです。
もう1つの理由は、臨床獣医師の仕事が好きだからです。


西川 忍先生は3人のお子さんを育てられたわけですが、女性獣医師として一番大変だと感じられたのはいつ頃でしょうか。

忍先生 子供が小さい時、特に小学校に入るまでの時期ですね。

西川 その大変な時期に現役を続けるためにどんなことをされたのでしょうか。

忍先生 まずゼロ歳児から3人共に保育園に預けました。
診察時間は19時までなので、17時までは保育園にみてもらって、それ以降は、子供が小さいうちは私がおんぶしたり、少し大きくなってからはテレビでディズニーなどのビデオをみせている間に診療や手術をしていました。


小暮院長 今では考えられないことでしょうが、子供をおんぶして診察していました。
患者さんの中には「私が子供たちをみますから、お2人は手術に専念してください」と仰ってくれる人もいました。


忍先生 ゼロ歳で保育園に預けたことと、時々両方の親に来てもらったこと。
そして家政婦紹介所に頼んで家政婦さんに来てもらったことで、3人を育てながら現役を続けてきました。
そうしなければ、現役を続けることは難しかったと思います。


西川 現在ではこの家政婦さんを頼む場合に、親が「そこまでして仕事を続けることはないだろう」と、反対してやめさせるケースもあります。
先生はこうした親の反対はなかったのでしょうか。

忍先生 親が反対することはなかったです。
それは、私たちが大きな借金を抱えて懸命に頑張っているのが伝わっていたからだと思います。


西川 この業界では、家政婦さんやベビーシッターさんを頼む人が非常に少ない。
何らかの抵抗感があるからでしょうが、忍先生は家政婦さんを頼むことについての抵抗感はなかったのでしょうか。

忍先生 私はすごく助かりました。抵抗感よりも必要性の方が大きかったです。
同じ人が家政婦さんとしてずっと来てくれましたので、子供たちもいつしかその人に慣れていたので、公園などに連れて行ってもらうこともありました。
ずっと同じ人だったことがよかったのだと思います。
長男は、今、小児科の医師として開業していますが、子供達も小さいので、抵抗感なく週2回家政婦さんを頼んで来てもらっていると言っていました。
子供たちをいろんな方々にみてもらう事は、子供の教育の面からも良い事のようですよ。
若い方も自分が仕事を続ける為に家政婦さんやベビーシッターさんを頼むのもいい方法だと思います。


小暮院長 子供が小学校高学年になった頃からは、親が仕事をしているところをみせるようにしてきました。

忍先生 振り返ってみれば、親が仕事をする姿を子供たちはしっかりみていたのかなと思います。
親が患者さんに対して一生懸命にやっている姿を見ていたからか、結婚した娘達も現在、当たり前のように常勤医として仕事をしています。(まだ子供はいませんが)。


西川 全国の多くの院長先生から聞くのは、両親が仕事ばかりしていたので、子供が寂しい思いをして、そのために自分は獣医師にはならないとか、結婚したら奥さんは絶対に仕事をさせないという子供になったと言うのです。
働いている親の姿をみて、「いい」と思う子供と「寂しい」と感じる子供、なぜこんな違いが生まれるのでしょうか。

忍先生 それは、夫婦間の会話ではないでしょうか。
「今日、きてくれたワンちゃんが良くなってよかった」とか、私たち夫婦は会話していましたから、子供たちは何気に聞いていて、「いい仕事をしているんだな」と感じ取ってくれていたからかもしれません。
先日、成人した娘達に、その当時の感想を聞いてみました。うちは1階が動物病院で、2階が住まいなのですが、ご飯は一緒に食べていたし、親が1階に居るので寂しくなかったと言ってました。


西川 この動物病院に特有のことかもしれませんが、家族旅行の最中に突然電話が掛かってきて、旅行途中で帰らざるをえなくなったことがある先生がおられます。忍先生はこんなご経験はありましたか。

忍先生 日曜日も仕事優先でやっていましたので、旅行に行くこと自体、なかなかできなかったです。
これは家族の思い出を作れなかったということではとても残念なことで、今から思うともう少し子供達と一緒に出かけたかったというのが正直な気持ちです。その当時は、それを考える気持ちの余裕がなかったですね。
学生さんがもし家族との思い出なども大事にしたいと思えば、子供が小さい間だけ仕事を少しセーブして、子供が大きくなったら復職してみてはどうでしょうか。今まで勤務していた職場であれば、復職しやすいですよ。


西川 この点は現役である続けるためには、辛い面ですね。

長く続けたいなら、夫婦でやっている病院をさがすのも一案

西川 忍先生の病院で勤務医さんや看護師さんで結婚、妊娠すると辞めて、育児が一段落されてからカムバックされたケースはありますか。

忍先生 ここの病院に勤務していた先生は、男性獣医師の場合は、もう1件、他の病院に勤務されて、多くは開業していきました。
カムバックしてきた勤務医さんは、女性獣医師1人だけです。
この方は独身の方で、体調悪化で退職されて、後に元気になったので復帰したというケースです。


小暮院長 看護師で復帰した人はいません。

西川 結婚すると、そこで辞めてしまって、そのままという方が多い。やはり、現役復帰は難しいのでしょうか。

小暮院長 看護師では、その後にトリマーになった人は多かったです。自宅を改装してお店を開いています。

忍先生 うちの勤務医さんたちは、みんな独立して開業しました。女性獣医師も夫婦で開業しました。
勤務医として来た先生方は、、学生時代に結婚相手が決まっている人とか、結婚を前提に付き合っている相手がいる人が多かったです。


西川 忍先生ご夫妻の病院に、結婚予定の勤務医が入ってくるのは、この病院に受け入れる環境があったからではないでしょうか。独立された後も、忍先生ご夫妻を見習って、親とか、家政婦さんとかに助けてもらっているのではないでしょうか。

忍先生 そうかもしれませんね。
ある先生は、ご主人の実家の近くで開業しました。その後、病院が大きくなって勤務医先生が増えているのに、現役を続けられておられますね。


西川 この先生の病院はホームページをみましても、勤務医やスタッフ数まで、忍先生ご夫妻の病院そのままですね。女性勤務医先生が入ってきて、忍先生ご夫妻の働き方をみて、自分も現役を続けたいと思われた先生が多かったということでしょうか。

忍先生 多くの女性の先生方はうちの病院を退職された後にすぐに結婚されているので、他の病院に勤務することはなかったと思います。

西川 忍先生も、大学を卒業してすぐにご結婚されて、その後、開業されています。

忍先生 はい、そうです。

院長は、千葉の病院で勤務していて、私は、卒業後は薬理に進みました。そして1年後に結婚して、それから院長が勤めている病院で一緒に開業準備をしました。
私が小動物臨床に入ったのは、結婚してからのことになります。
その千葉の病院もご夫妻でやっていましたので、私たちもまた「動物病院はこういうもの」と思っていたのかもしれません。


西川 今の女子学生さんにとっては、自分が生涯現役でやりたいならば、数は少ないですが、ご夫婦でやっている病院を探して就職するのも1つの方法かもしれません。

忍先生 そうですね。すると、夫婦で働きながら子育てなどをどうしているのかがわかるでしょう。夫婦で開業している動物病院や、女性獣医師一人で開業している動物病院をいくつか見学して、自分に合った所に就職するといいと思います。

この続きの【離婚率の高い獣医師同士で、うまくいく方法】ほかは、別冊Successionに掲載しています。

この冊子に載りきらないインタビューをまとめた
2018年6月発刊「別冊Succession」
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