chapter-06

臨床獣医師の可能性は、これから2極分化していく

院長を目指すのなら、その穴場スポットはこの「承継開業」にあり

ピンチヒッター獣医師元院長 作本貞良×承継開業コンサルタント 西川芳彦

作本先生

学生さんにとっての最大の関心事は、これからの進路をどう決めて学生生活を送るのかだと思います。
獣医師という国家資格を持つことで、これからどんな働き方ができるのか。

そこで、研究職から臨床医に転じられて新規開業された後、40歳代で院長を「承継リタイア」、そこから「ピンチヒッター獣医師」という新たな働き方を始められた作本貞良先生との特別対談を企画しました。

西川 作本先生のご経歴をお伺いしますと、最初は企業の研究職をされていて、その後に臨床医に転じられて、勤務医経験をされ、後に開業されています。
さらに一番働き盛りの40代後半で自分の病院を第三者に譲られる「承継リタイア」をされました。
そして、その後も臨床獣医師としてご活躍されていて、「ピンチヒッター獣医師」という、新たな働き方を始められました。
作本先生のこれまでの経験談は、これから学生さんが進路を決める上で参考になると思います。
まずは、学生時代にはどういう道へ進もうと考えられていたのでしょうか。


作本元院長(以下作本) 入学した当初は、進路については何も考えてはいませんでした。
それから進路を考え始めたのは3年生の時で、製薬会社に行きたいと思いました。
志望が研究職に決まったので、研究室も基礎系の薬理学教室に入りました。

西川 先生の友達の進路は当時、どうだったのでしょうか。

作本 やはり、小動物の臨床が6割近くで一番多かったです。
次いで、公務員が2割、大動物が1割で、残りは大学に残ったり、なかには、獣医師の免許を持ちながら家業の毛糸屋を継いだ人もいました。

西川 大学を出られて製薬会社に就職されますが、その経緯についてお聞かせください。

作本 製薬会社への就職は、大学の教授からの推薦でした。
その会社は、製薬業に新たな参入するために「医学研究所」を立ち上げたところでした。業務としては、研究職として電子顕微鏡ばかり見ていました。

西川 その会社を辞めて臨床医に転向しようと思われたのはなぜでしょうか。

作本 まずは、企業の研究職と臨床の開業医とではあまりにも年収格差があると感じてしまったことです。
大学を出て3年くらい経ってくると、友人の中には勤務医から独立開業する人が出てきます。
大学を出た時のスタートラインは同じでも、たった3年間でこれだけの差が出てくるのか。
「これは臨床医になって開業を目指す方がいいな」と思いました。
そして、「どうせやるなら早い方がいい」と考え、『石の上にも3年』と言われるように、会社に3年間は居たのでもう一区切りかなと思って辞めました。
もう1つは、企業内での人間関係がみえてきたからです。
最初は研究職としての仕事を面白いと感じていたのですが、3年くらい居ると会社の全体が大体見えてくるようになります。
その1つが、「派閥争い」です。自分が誰の派閥に入っているのかで出世が決まる。私の直属の上司も、私を自分の派閥の一員と見做して接してきます。
この派閥争いはどの会社に入ってもあります。
「これは私の性に合わない」と感じました。「なぜ同じ会社なのに争わないといけないのか」と。
ここで20年、30年と居続けることはできないと感じたので、「3年区切り」で辞めました。

西川 作本先生のこの「3年区切り」にはどんな意味があるのでしょうか。
作本 私にとっては、3年が一括りです。1年目はまず習う。
2年目で馴染んで来て、3年で恩返しをしてから辞める。
このことをある先生から教わっていたこともあって、それ以来、私の行動パターンになっています。
どんな仕事でも3年間やれば、自分のキャリアにすることができます。
そこでお世話になった人にも、身につけたスキル、ノウハウで恩返しができるようになっています。
たった1年で辞めてしまうと、何も得るものがないばかりか、ご縁をつくって頂いた方とかお世話になった方とかに失礼になると考えてきました。

勤務先病院を見極める大事なポイントとは?

西川 臨床医に転じられて、最初に勤務する病院はどのように探されたのでしょうか。

作本 獣医師の資格さえもっていれば、開業はいつでもどこででも、たとえ海外であったとしてもできると思っていたので、思い切った転身ができました。
研究職から臨床医になると決めて最初にしたのは、友達が勤めている病院を見学しに行くことでした。
2件ほど訪問して勤務する病院を決めました。

西川 その病院に行こうと思った決め手になったのは何だったのでしょうか。

作本 やはり、症例数が多いことと自分に手術をさせてくれることです。

西川 手術させてくれるかどうかをどのように判断されましたか。
ここは勤務先病院を見極める上での大事なポイントで、「院長からいい話を聞いていたのでそこに決めたのですが、入った途端に言っていたこととは違って全然手術をやらせてくれなかった」という話はよく聞きますので。


作本 それは、勤務医である友達から「いくらでもできるよ」と聞いていたからです。
そして勤務するまでの間に病院を訪ねて、友達と一緒に手術をすることもできたので、「この病院なら手術ができる」と確信しました。
2件訪問して、私が選んだのは、古い病院でした。
もう1件はすごくきれいな病院でしたが、選択からは外しました。
それは、病院さがしは見た目でやってはいけないと感じたからです。院長から話を聞くだけではなく、勤務医やスタッフにも話を聞くべきだと思います。
院長の話は100%は信用できません。

「承継開業」した院長が「病院選び」で共通していること

西川 今回この『Succession』と『別冊Succession』を出すにあたり、承継開業した院長先生13人にインタビューをしました。
どのように勤務先病院を探したのかの理由で一番多かったのが、「その病院の雰囲気と院長・勤務医、スタッフさんとのフィーリング(相性)が合ったから」という答えでした。
これは勤務医から承継開業して院長になる時、自分が引き継ぐ病院を決めた理由もこの「フィーリングを大事にした」と多くの先生方が言われています(ホームページhttp://www.medical-plaza.net)。
そして承継開業された院長先生のほぼ全てが、引き継いだ後に売り上げを伸ばしておられます。
多くの先生方が、学生の時も、承継開業で開業する時も、病院選びの決め手にされていたのがこの「フィーリング」であるというのは、なんとも不思議なことです。


作本 やはり、フィーリングなんでしょうね。
その病院がどういう病院であるのかは、院長に会うよりも、勤務医やスタッフに聞く方がよくわかります。
ピリピリしているとか、楽しそうにやっているとか。
その場の空気感というものですが、これは実際に訪ねてみて最初に感じることですから、その感性を大事にされているということではないでしょうか。

西川 つまりは、承継開業される先生は、学生の頃から自分がこれから獣医師として仕事をしていく上で何を大事にしなければならないのかをこの勤務先病院の選択を通じて気付いているということでしょうか。

作本 そうでしょう。実際に肌で感じたことを自分の考え方とか生き方の柱にしてきているということでしょう。

西川 最後に学生さんに向けて大先輩としてのアドバイスをお願いします。

作本 まずは、「開業はまだ可能である」という点です。
そのために話術(コミュニケーション力)と技術(スキル)をしっかりと身につけてください。
私の時代では「3年区切り」でしたが、今は5年です。
5年間しっかりと修業すれば、「承継開業」による開業はまだまだ可能だと思います。
一方、新規開業は場所によってはリスクが高くなっています。
特に首都圏です。
これまでならば新規開業コンサルタントも「ここが穴場です」という開業スポットがあったのでしょうが、今では新規開業があまりにも増えすぎて、もう飽和状態。
歯医者さんの二の舞になるのではと危惧されていますが、大多数の人が気付いていない穴場がもう1つあります。
それが、「後継者を探している病院」です。
実は、この穴場はこれから増えていきます。
勤務医から院長への道は、「承継開業」というもう1つの方法を知れば、「可能性はこれからもある」と言ってもいいでしょう。
周りからのマイナス情報によって進路を変更するのではなく、可能性を信じて頑張って開業を目指してほしいと思います。
そして先ほど、5年間の修業が必要と言いましたが、他者が5年間かけてやることを3年間くらいでやるくらいの意欲と情熱を持って、話術や技術の向上に努めてください。
それが、チャンスにつながります。
「幸運の女神は前髪しか無い」。
この言葉はしっかりと頭の中に入れておいてください。

西川 作本先生、ありがとうございます。 私も臨床を志す学生さんが途中で進路を変えてしまうのは非常に残念だと思ったことから、今回この『Succession』と『別冊Succession』という2冊の雑誌を創刊して、学生さんと院長先生とをつないで「承継開業」という、もう1つの開業法にはこれから可能性があることを伝えたいと考えました。 これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。